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時の人 スポーツJ「時の人」は
アメリカで活躍する方々をご紹介するコーナーです。
文化的、社会的に貢献されている人々に
さまざまな角度から焦点をあてご紹介いたします。
バックナンバー
2007年11月9日号掲載
ミュージシャン
奈良 裕之
mr.nara

龍村仁監督のドキュメンタリー映画「地球交響曲(ガイアシンフォニー)第6番」への出演でも知られる民族音楽家の奈良裕之さんが、北米ツアーの一環としてサンフランシスコを訪問した。先月27日のサンフランシスコ桑港寺でのライブを前にした奈良さんにお話を伺った。

PROFILE Yuji Nara
 
94年より世界の民族音楽による即興演奏を始める。ライフワークとして、多くの福祉施設・教育施設・病院などで演奏し、人々と深く交流している。舞踊・詩・絵画・写真などとのコラボレーションや、アイヌ詩1曲舞踊団「モシリ」との共演にて、日本列島スピリットツアーやインドネシアでも演奏している。ドキュメンタリー映画「地球交響曲ガイアシンフォニー第3番」出演のアラスカ先住民の語り部ボブ・サム氏と98年より各地で共演。99年オーストラリア・ケアンズ市を中心に福祉施設・教育施設・一般公演などを行う。2001年6月・10月、2002年4月に韓国で公演。2004年5月にはニューヨークのグラウンドゼロで平和を祈念した演奏を行っている。2005年2月に、タイのカンチャナプリでの追悼演奏、孤児院、モン族の寺院、小学校などでの演奏。2006年4月公開の「ガイアシンフォニー6番」の「虚空の音」の章に出演。また日本各地の神社・寺・教会・遺跡などで奉納演奏を行う他、音楽活動とは別に、写真や書による個展も開いている。
 
 
危機の時代に振るう光の弓

 もともとはロックなど西洋のポピュラー音楽のミュージシャンとして活躍していた奈良さんが世界の民族楽器による演奏を始めたのは1994年、40歳を迎えたときだ。

「商業主義的な音楽を離れて、やったことのないことをやってみようと思ったんです。」

以来、カリブ海トリニダード島の「スティール・ドラム」、アフリカの「ウォーター・ドラム」、インドネシアの「グンデル」「ジャワ・ゴング」、スイスの「ハン」、アメリカの「ディアーダンス・ドラム」そしてアメリカの光の弓「スピリット・キャッチャー」などを演奏している。奈良さんは「縁のある楽器が集まってきたんです」と語る。
奈良さんが操る「スピリット・キャッチャー」は弓のこと。弓は我々の祖先にとって生命のための糧を得させてくれる道具であると同時に、糧として自らの命を人間に与えてくれた存在に呼びかけ感謝と祈りを伝える道具でもあった。それを「光の弓」と呼んでいる。

「音は波動ですから、光のレベルに繋がっています。音の源としての光へと。」

mr.nara

奈良さんの奏でるのはどんな音だろうか。奈良さんの演奏のスタイルは即興。従って、奈良さんの奏でる音はその場1回限りの消え去ってゆく音だ。「今この時」を共有している人たちだけが心と体で感じあうことのできる響きの世界を奈良さんの音楽は作り出す。奈良さんはライフワークとして、多くの福祉施設、教育施設、病院などで演奏活動を続けているが、盲聾学校で演奏すると耳の不自由な子供達も体全体で音楽を感じ取り、飛んだり跳ねたりリズムに合わせて動きだすという。
奈良さん自身は演奏中にどんな状態なのだろうか。

 

「瞑想状態といいましょうか。演奏中は意識の状態をニュートラルにして流れに任せています。」

奈良さんのお話を伺っていると、よく「流れにまかせて」とか「必然性」という言葉、「導かれて」とい言った言い回しがよく出てくる。近代的自我に基づいた芸術表現とは対極にあるスタンスだが、奈良さんはそもそも自我とか個性といったことを超えたところ、あるいはより深いレベルに想いを沈めている。

「意識の表面の波立ったところ、自我のより深いレベルに人がもっと開かれて交感する本質的な感覚の世界、人間の互いのベースになっているところがあるように思います。」

奈良さんが出演した「ガイアシンフォニー」のガイアとは地球のこと。もともとNASAの気象学者、化学者であったジェームズ・ラブロックによって唱えられた「ガイア仮説」は地球を生物と環境の相互作用(交感)が織り成す一個の生命体とみなす考え方だ。また、全ての存在が響きあい、宇宙が音楽的調和を奏でているという発想は、「ピタゴラスの定理」のピタゴラスや「ケプラーの法則」のヨハネス・ケプラーに代表されるように西洋においても長い知的伝統だった。ところが、現代はインターネットによって一瞬のうちに大量の情報が地球規模で交換されながらも、人と人の心のつながりが断片化されたり、歪められていうかのようにも思える。また、人は他の存在の発する声、響きに耳を傾ける余裕を失っている。奈良さんは見失われた調和へと我々を導いてゆこうとしているのかもしれない。   そして、その奈良さんの活動に共鳴する人たちも多い。

ms.aoyagi今回の北米ツアーにヒーラーの青柳麻喜さんも同行している。奈良さんは舞踏家や詩人、画家とのコラボレーションも多いが、青柳さんもその1人だ。もともと看護師だった奈良さんは人間の意識のあり方が体や病気の状態と深い関係にあることに気付き、スピリチュアルな世界の探求を始め、ヒーラーとして活動している。その後、奈良さんと出会い各地の聖地や神社などで舞を奉納している。その青柳さんも自らの活動を「見えない力に導かれている」と語る。

「奈良さんの音を聞いていると自然の流れで舞がでてくるんです。」

 

 

一方、奈良さんも奉納演奏について、自ら求めてというよりも「自然に招かれて」行なっていると語る。同時多発テロの跡地「グラウンドゼロ」でも追悼の演奏を行なった。その活動も政治的なメッセージをこめたパフォーマンスというよりも、亡くなった方々そして今ここに生きている存在の交感と祈りの場を開くものだったと言っていいだろう。奈良さん自身は新聞の取材に対し「イラク情勢をはじめ世界の流れの中でバランスを失っている米国に、祈りの時間を届けたい」と語っている。

さて、このように奈良さんの活動は多くのマスコミによって報道されているが、そこでは奈良さんの音楽を形容して「癒し」という言葉が用いられることが多いようだ。確かに人々の心が解放されて深いレベルで新しい連帯が求められている時代なのかもしれない。奈良さん自身はそのような現代を「危機の時代」と言う。いまそこにある危機に直面している時代だということは間違いがないだろうが、奈良さんは現代を「時代の変わり目」とも捉えている。「そうあってはいけない」ものと「目覚め」の両極の時代だというのだ。つまり、危機の時代はまた希望を内包しているというわけだ。ただ、奈良さんは危機を希望に転化する指針を与えるものが求められると考えている。
とすると奈良さんの活動はそのような「指針」(もしかしたら、「矩」とか「道(タオ)」と言ってもいいのかもしれない)を求める旅とみることができるだろう。奈良さんは「心の扉を開く」と言う。奈良さんの音に交感して開かれた扉の向こうにはどのような世界が広がっているだろうか。

 

 今回の奈良裕之さんのライブを主催したSFいすきあは、収益$1013.58を低所得者の女性癌患者さんをサポートし無料の代替医療を提供している Charotte Maxwell Complementary Clinic, Oakland, CAに寄付した。


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