会頭就任にあたって松浦氏はJCCNCに対する問題意識を改めて洗い直し、まず打ち出したのは「原点回帰」。JCCNCの存在意義、目的はどこにあったのか。1951年に設立されたJCCNCの目的は3つあると松浦氏は指摘する。第一に、日米間のビジネスの促進と相互理解を図ること、第二にそのためにビジネスに関わる会員の活動をサポートすること、そして会員間の親睦である。その3点に沿ってJCCNCの現状を鑑みるに1、2に関わる活動に手薄な面があることを松浦氏は遺憾とする。
「みなさんがよくご存知のJCCNCの活動というとゴルフ大会や新年会といった会員の親睦に関わる活動でしょう。また、桜祭りへのサポート、寄付など、コミュニティー・サービス。これらの活動が重要であることは言うまでもありません。しかし、1、2の目的に関しては今のところJCCNCが十分その存在意義を発揮しているとは言えません。」
現在北カリフォルニアにある日系法人、企業は600を越えると言われている。そのなかでJCCNCの会員は200団体をすこし超える程度で、加入率は決して高くはないということになれば、松浦氏の具体的な課題の第一が会員の増強ということになる。「では、会員になるメリットは何なのでしょう」と松浦氏は自問する。「ひとつ確実にいえることはヒューマン・ネットワークということですね。しかし、このことも周知されているとは言いがたいようです。」
そこで早速松浦氏は4月にJCCNC紹介レセプションを開催し、活動概要の説明と参加者の懇親の場、そして参加者が自らのビジネスをプレゼンテーションする機会も設けた。これを機に入会する企業も多く現れ、この催しは大きな成果を上げた。松浦氏も「勢いを感じた」と語るこの種の催しは恐らくJCCNCの歴史の中でも前例のないものであった。
しかし、勧誘活動だけではなく、組織の強化のためにはビジネス上のメリットを打ち出すことが不可欠だ。「ネットワーキングといっても会員の中には販路を求めている方もいるでしょうし、アウトソーシングの先を求めている方もあるでしょう。会員のニーズをどのように吸い上げてゆくかということが課題ですね」と松浦氏は指摘する。セミナーの開催も考えている。「環境問題などは長期的にはどのような業種でも影響を受ける問題です。こうした問題についてシリーズで勉強会やセミナーができないだろうかと思います。雇用に関連してビザについての講演会なども有益でしょう。」
「原点回帰」とは開かれたJCCNC、そしして役に立つJCCNCへということだろうか。何故今JCCNCはその本来の役割を取り戻して行かなければならないのだろうか。
元連銀総裁ポール・ボルカー氏との対談(1996、9月)
走ってゆく
松浦氏にJCCNCについてお話を伺っていると、よく「走ってゆく」という言葉がでてくる。会頭の任期は1年。その間にできることはすべてやり、改革への道筋をつけてしまおうという強い決意の表れだ。その背景には単にJCCNCという組織を超えて、日本とアメリカを包む大きな情勢の流れに対する憂慮がある。
まず、今世紀に入っての中国、インドの台頭に反比例するような日本の国際的なプレゼンスの低下、日本に対する関心度の低下ということがある。例えばその経済規模において優に先進国一国に相当するカリフォルニア州はすでに東京事務所を閉鎖し、サクラメント州政府の日本担当者の数も減っている。
また、サブプライムローン問題に端を発した証券市場の混乱、そして原油や穀物価格の記録的な高騰による世界的な景気の減退、先を見通すことのできない閉塞感のなかで人の動き、金の動きも鈍っている。しかし、大統領選挙を控えたアメリカは思い切ったことがしにくく、保護主義化することは十分考えられると松浦氏は言う。もっとも逆にみればこのようなときこそ日本のやるべきことがハッキリしてくるとも言えようが、この状況下にあって中央銀行の総裁ポストに空白ができるというような政治的混乱が日本の投資魅力をさらに低下させている。「政治の貧困が日本ひいては世界の歩みを阻害している」と松浦氏は歯噛みする。
そこで松浦氏が強化してゆきたいことの一つが広報だ。北カリフォルニアにおいても投資や雇用の創設という点で日系企業の果たしている役割は決して小さなものではないが、残念ながらその点が正しく理解され、評価されているとは言えない。プレスリリースも積極的に出してゆきたいと松浦氏は言うが、そうした広報活動は日系社会内でのJCCNCということに留まらず、カリフォルニアでのJCCNCそして日本の存在感を高めてゆくことだろう。また、現在JCCNCの会員の過半はサンノゼ・シリコンバレーを拠点としている。そこにはITやバイオ系のベンチャーが活発に活動し、それぞれ団体をつくっている。そうした他団体との連携も松浦氏は視野に入れている。その中でJCCNCの活動の幅も広がるし、JCCNCの政治的な力が他団体やそれに属する企業にとって大きなサポートとなることだろう。走ってゆく。人が不安で一歩を踏み出すのをためらうときこそ行動の季節。松浦ハリケーンが北カリフォルニアを直撃する。
元PGAゴルフプロで現在デザイナーの愛妻キャサリンさんと
単なる神頼みではなく
多趣味なことでも知られる松浦氏。自らを称して「Man of Curiosity」という。スポーツならゴルフ、テニス、水泳、スキー、スカッシュ、乗馬など。音楽ならフルート歴は24年。毎年気持ちホームでクリスマスのコンサートを開き、昨年は長嶺安政在サンフランシスコ総領事のリコーダーとのコラボレーションも果たした。クラリネットやピアノも自家薬籠中にあり、さらに敬虔なクリスチャンである松浦氏は聖歌隊でテナーを担当、その指揮もこなす。ちなみにカラオケの十八番は布施明、またポール・アンカの「ダイアナ」は踊りながら熱唱する。踊りといえば、ボールルームダンスはコンペティションでチャンピオンに輝くほどの腕前だ。松浦氏の好奇心は止まるところを知らない。さらに碁、ブリッジ、ヨガに本格的に取り組んでみたいと語る。
JCCNCについても趣味についても松浦氏のお話を伺っていると、氏は「時間がないから」「忙しいから」という言葉を言い訳に使うことはないのだろうと思う。やるべきこと、やりたいことを見出すや果敢に進む。そんな松浦氏のモットーは「神に祈ってベストを尽くし、最善を尽くして神に祈る」だ。おそらく氏には宇宙における人間の位置づけと使命に深い自覚があ るのだろう。氏が自分の人生に大きな影響を与えた人物のひとりに挙げる詩人の星野富弘氏は「花は自分の美しさを/ 知らないから/ 美しいのだろうか/ 知っているから/美しく咲けるのだろうか」と問いかける。それに答えるように17世紀ドイツの宗教詩人シレジウスは「薔薇はなぜという理由なしに咲いている。薔薇はただ咲くべくして咲いている。 薔薇は自分自身を気にしない、ひとが見ているかどうかも問題にしない」とうたう。そのシレジウスはまた「神に向かって叫んではいけない。水源は汝自身の中にある」ともいう。松浦氏は先のモットーを「単なる神頼みではないんですよ」と説明する。そう、頼んで責任を預けてしまうのではなく、己の良心に聴き従って進む。だから松浦氏は柔和な笑顔で恐るべきパワーを発揮するのだ。
|