「時の人」今回はファミリー編です。
ジュニアの世界大会でも活躍するジュニアゴルファー青島賢吾君と お父さん慶明さん、お母さん珠美さんご一家をご紹介します。
グリーンの上では一人ぼっち? いや、みんながいてくれる。
今一番好きなことはゴルフだという賢吾君は、ゴルフの魅力を「いろんな人と会えて楽しくできるところ」だと言う。賢吾君のバッグには試合で知り合ったマレーシア人の子からもらったキーホルダーが付いている。「あの子のゴルフはまるでコンピューターのように正確だったね〜。」賢吾君は思い出しては感心する。 ゴルフを通じて賢吾君のまわりにできてゆく人の輪。ご両親は賢吾君にその人と人のつながりを大切にして、常に忘れずにいて欲しいと思っている。「賢吾一人がゴルフをするためにどれだけの人が力を貸してくださっていることか。」珠美さんは言う。 ハワイでゴルフを始めたとき、教えてくれる人を探しまわったが誰からも「5歳になっていないと」と断られた。やっと賢吾君を受け入れてくれる先生が見つかった。ところが今度はまだ幼い賢吾君はクラブを振り回したりふざけ放題。叱ろうとするご両親を先生は「ゴルフを嫌いにならないように」と制して、優しく根気よく教えてくれた。先生はハワイとカリフォルニアに離れてしまった今も何かにつけ賢吾君を気にかけてくれる。また、賢吾君が試合で立つグリーンをわざわざ下見に行ってくれる人もいる。 試合の時には慶明さんがキャディーを務める。また世界大会ともなれば日本より祖父が駆けつけてキャディーを勤める。「賢吾にゴルフをやらせたのは僕も一緒に遊べるから。日本もだいぶ変わってきたようですが、なかなか小さな子供がゴルフを楽しむ環境にありません。日本では子供のゴルフ道具自体が手に入りませんし。その点アメリカのゴルフは子供もウェルカム。せっかく素晴らしい環境にいるのだからゴルフをやらせようかなと思いました」と慶明さん。珠美さんも「私の義父も実父もゴルフをしますので、男三代共通の趣味で楽しんでいます」と言う。 とはいえ試合ともなれば悠長なことも言っていられない。賢吾君もキャディーのお父さんに喰ってかかったりして険悪なムードにもなるという。真剣勝負の試合であればこそだ。賢吾君は「試合に勝つのが嬉しい」と言う。慶明さんは「ただ勝てばいいわけではない。みんなの力があってゴルフができている。そのことを感謝する気持ちを忘れないで欲しい。そして、熱意があればそれは人に伝わることを知って欲しい」と語る。ご両親は試合が終われば応援してくれた人、手助けしてくれた人一人一人に電話をし、賢吾君自身にお礼を言わせている。今年賢吾君は慶明さん、珠美さんに「試合に連れてきてくれてありがとう」と言った。そのことが珠美さんにはとても嬉しい。 賢吾君は来年からはワールドジュニアも自分ひとりで回らなくてはならない。いや、やがてご両親の手を離れて人生というグリーンの上をひとりで歩んで行かねばならない。孤独?そんな時もあるだろう。でもどんな時でも自分は一人ぼっちではないということを賢吾君は知っていることだろう。
賢吾君と話しをしていて大変印象的なことは日本語が上手なことだ。日本人のご両親に育てられた日本人の子供をつかまえて「日本語が上手」というのも奇妙なようだが、事はそう簡単ではない。言語能力の形成期にある子供がいるご家庭は、外国で日本語能力を養うことが如何に大変なことか実感していらっしゃるだろう。しかし、一方「親が日本人だから日本語は大丈夫だろう。アメリカで生活しているのだから英語も大丈夫」と考えている親御さんも多いようだ。ところが、バイリンガルどころか日本語も英語も中途半端という悲しいケースが多い。 慶明さん、珠美さんは賢吾君の日本語教育にはずいぶん気を遣ってきたという。ハワイにいたころも周囲には「日本人が日本語にお金をつかってどうするの」と笑う人もいたが、日本語の幼稚園や日本語の教室に通わせたりもした。賢吾君にとっては負担なところもあったのかも知れないが、「いつか感謝してくれる」と頑張る珠美さんに貴重な示唆を与えてくれたのは賢吾君のアメリカ人の先生だった。 その先生はご両親に、賢吾君に対しては日本語で通すこと、本を読み聞かせるときには英語の本である必要はないと教えてくれた。「賢吾君にとっては日本語が母語。母語を解することができないのは大変なことだ」とその先生は言った。「母語」とは言語学者の田中克彦氏によれば「ことばの伝え手である母と受け手である子供との関係でとらえられた」言葉である。つまりそれは最もインティミットで原初的な人間関係を形作ってゆく言葉だ。賢吾君の場合、それは日本語であることをご両親はよく理解していた。 「バイリンガルの成功例というのはあまりないということは見聞きしていました。また、子供が思春期を迎える頃、言葉の問題から親子の関係が崩れてゆくということも聞いていました」と珠美さん。現在賢吾君が通うThe Harker Schoolも玉川学園の姉妹校で、インターナショナルプログラムが充実しているということで選んだ。「学校でも日本人であることに誇りを持ってもらえるように選択しました」と珠美さんは言う。賢吾君もよくご両親の気持ちに応えてきた。海外で生活する子供が日本語を学ぶ際の問題点はそのモチベーションの維持だ。賢吾君は「パパやママはいつか日本に帰ることになるって言ってましたから、日本語ができないのは困ると思いました」と賢吾君は言う。続けて「でも、一番日本語の役に立ったのはテレビだと思います」と笑う。ちなみに賢吾君の好きなアニメは「ど根性ガエル、ハクション大魔王、ドラえもん、サザエさん、キャプテン翼」。懐かしい名前が並んだ。意外と渋好みだ。 「勉強は?」と訊くと、「勉強はあんまり好きではありません。理科や算数は得意だけれど」と賢吾君は少しだけ口ごもる。賢吾君のようにアメリカで生活する日本人の子供達は大変だ。現地校は宿題が多い。それに日本語や日本の勉強。賢吾君にはゴルフの練習もある。「子供達は本当に忙しいと思う。それも二つの言葉の間で。それは凄く大変なことです。親は『子供のうちにこんないいところで生活できて幸せだ』なんて気楽に言うけどそれは大人の目線であって子供の目線じゃないものね」と珠美さんは言う。